重要な問題の先送りが常態化していましたが、若手理事が主導して重松事務所の採用に動いてくれたお陰で、早急に解決したかった長期修繕計画や修繕積立金の改定等が次々と解決。2年がかりの給排水管全面更新工事も大成功に終わり、感謝状を贈呈いたしました。3回目の大規模修繕工事も引き続きご支援いただく予定です。
長年自主管理をしてきた旧住宅公団系の大型団地。真面目で問題意識の高い方々が多い稀な団地でしたが、近年は重要な問題の先送りが常態化し、当時の理事は、長期修繕計画や修繕積立金を含めた団地の将来に不安を覚えたと振り返ります。なぜそのようになったのか、どのように解決していったのか、そして、とにかく大変だったという給排水管全面更新工事の進め方やポイントについて、採用当時の理事である古海様、そして、現理事長の成瀬様にお伺いしました。
竣工 | 1977年 |
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戸数 | 310戸 |
マンション形態 | ファミリータイプ(住宅公団団地) |
管理形態 | 会計処理、管理窓口業務及び清掃を委託しその他は自主管理 |
主な支援内容 | 顧問契約(長期コンサルティング・支援契約)/給排水管全面更新コンサルティング・支援/大規模修繕工事コンサルティング・支援/長期修繕計画サポート/管理規約の改正/管理費等の滞納問題 等 |
まずは、現理事長の成瀬さんにお伺いしました。
――重松マンション管理士事務所に相談したきっかけを教えてください。
成瀬現理事長 重松マンション管理士事務所に最初に問い合わせをしたのは、私の4代前の理事会です。ですから詳しい事情は当時の関係者に聞かなければわかりませんが、総会で重松マンション管理士事務所と契約する旨の提案理由について大体のことは覚えています。
当団地の理事会が抱えていた悩みはいくつかありますが、一番大きな問題は、マンション管理、つまり理事会運営に関する重要な決定事項がなかなか決まらず、どんどん先送りされていくということです。
――なぜそのようなことが起きていたのでしょうか?
成瀬現理事長 理由ははっきりしていました。
一つはマンション管理に関する専門的知識が豊富でないことです。
昔と違って、法律面でも技術面でもマンション管理に要求される知識が難しくなっていますし、マンションを取り巻く環境が、私達が自主管理をしていた昭和50年代60年代とは全く違ってきているので、素人が集まって議論をしても一向に結論を出すことが出来ませんでした。結論を出したくても出せない、そんな状況が続いていたと思います。そしてもう一つは、理事の高齢化による活力不足です。
13名の役員のうち、バリバリの若手は2〜3名で、他は60歳以上(中には80歳近い人も・・・)の高齢者がほとんどですから、改革や改善をしていこうというエネルギーがどうしても湧いてきません。
――なるほど。しかし、そのような問題に気付いたとしても、長年自主管理をしてきていると、そのままズルズルいってしまいそうですね・・・
成瀬現理事長 そうですね。ですから、なんとかその状態を打破するために、当時の理事会の中の若手の理事が主導して、外部の専門家としてマンション管理士の導入を提案しました。
重松事務所のことはインターネットで見つけたそうですが、当団地に近いこともあって、来ていただいて面談したそうです。
今度は、当時の理事の古海さんにお伺いしました。
――当時の課題について、具体的に教えていただけますか?
古海元理事 その当時の大きな課題は、「長期修繕計画の見直し」と「修繕積立金の改定検討」でした。
十数年前に当時の修繕委員会が主体となって作成した長期修繕計画書はあったのですが、前回の大規模修繕工事以降は計画のほとんどが実施されず、にも拘わらず、修繕積立金を含めて計画の見直しが一切されずに放置されている状態でした。また、修繕委員会も解散していて、専門的に検討する体制もありませんでした。
当団地は築30年を超えていましたから、これから必要となってくるであろう給排水管の取替や3回目の大規模修繕工事について、具体的な実施時期や工事費用等の記載もない状態に不安を覚えましたし、現在の修繕積立金で賄うことが出来るのかとか、一時金が必要になるのかなどが心配されていました。
また、近隣の団地との交流もありましたが、理事が毎年変わることもあり正確な情報は把握出来ず、「どこの団地では給排水管の更新工事に○○○円かかったみたい」とか、「どこの団地では、もうすでに工事は済んでいるらしい」とか、周辺の情報はある程度入ってくるものの、この団地の場合は、どのように対応していったらよいかという具体的な検討や対応はあまりされていませんでした。
――なるほど。ところで、古海さんのマンション管理に対する問題意識は、どこからきているのでしょうか?
古海元理事 どこから、ですか? いや・・・駅に近いこの団地が気に入っていて、これからもずっと住みたいと思っているからです。これから何十年もずっと住むことを考えれば、やはりこれからの管理や今後の修繕積立金の額がどのようになっていくかはとても気になりますよ。
ただ・・・最初からマンション管理に対する問題意識が高かったのかと言えば、そうではなかったですね。「ずっと住みたい」と思っていたものの、日常的にそれを強く意識していたわけではないですし、そのために「管理組合等に積極的に関わろう」とか「マンション管理をどうにかしよう」などという発想自体がありませんでした。今となっては恥ずかしい話ですが、そもそも「管理組合」とか「マンション管理」への理解が乏しかったのです。
そんな私にマンション管理への問題意識のきっかけを与えてくれたのは、当時の副理事長です。初めての理事就任で右も左もわからない状態だった私が、副理事長や他の理事の方々に協力を仰ぎながら修繕が必要な箇所を調査する過程で、管理会社への度重なる聞き込みや過去の修繕記録等の書類確認、理事経験者への相談等、考えられることを全てやって見えてきたのは、「毎年全員が交代する理事会運営に無理がある」ということでした。
――なるほど。実際の理事会活動を通じて、マンション管理への問題意識が強くなっていたという感じなのですね。そして、適正なマンション管理の継続性について難しさを感じ、「マンション管理士」に行き着いた、ということでしょうか?
古海元理事 そうですね。ただ、いきなり「マンション管理士」ではなく、その前に私が行き着いたのは、国土交通省のホームページで見つけた「マンション管理適正化法」でした。
――先に「マンション管理適正化法」ですか。
古海元理事 はい。その時は、マンション管理士そのものを知りませんでしたので(笑)。
そして、当団地の状況と国が認識している問題意識が同じことが判り、マンション管理の適正化を実現するために創設された「マンション管理士」の存在も知ったのです。私のマンション管理に対する問題意識はそのような経緯があってのことですが、そうした問題意識の源泉は、最初に少しお話しした通り、一住民として「今後も安心してこの団地に住み続けたい」という当たり前の意識にあります。そして、私は当時の副理事長や他の理事の方々のお陰でそれを強く意識するようになりましたが、これは当時の理事会が持つ共通の意識だったといえるかも知れません。
――ありがとうございました。マンション管理に対する様々な問題意識の源泉が「今後も安心して住みたい」という思いにあることがよくわかりました。
今後も安心して住み続けるためには、当時課題に挙がっていたという長期修繕計画や、ご指摘の継続性などが重要になりますね。
――それでは、面談した時のことを教えていただけますか?
古海元理事 はい。面談した際には、まず管理規約、直近の決算報告書、長期修繕計画を見ていただきました。
管理規約に改正するべきいくつかの問題点があることを指摘していただきましたが、一番問題なのはやはり長期修繕計画書とのことでした。
具体的には、既に実施していなければならない工事が行われていないとか、給排水管の更新工事は記載してあるものの、その範囲が不明確であるとか。
また、先ほどお話した通り、当時の修繕積立金では資金不足になることが心配されていましたが、そのあたりも含めて長期修繕計画書の見直しが必要なことを確信出来ました。そこで、私としてはすぐに重松さんと顧問契約をして長期修繕計画の見直しにかかっていただきたいと考えましたが、何しろ今まで全てを自分たちで執行する文化が出来上がっている公団系団地ですから、理事会の中にも慎重論がありました。
――簡単にマンション管理士の導入!とはいかない空気だったのですね。
古海元理事 そうですね。慎重論といっても強硬な反対があったわけではありませんが・・・今までの理事会運営方針を変えて外部の専門家を起用することのメリット等を理事がまず理解しないと組合員を説得することが出来ないと考えました。
そこで、当時の理事長らが重松さんが顧問契約をしている近隣のマンションにヒアリングに行ったりしながら理解を深め、たまたま、3か月後に通常総会を控えていたこともあり、重松マンション管理士事務所との顧問契約を総会の単独議案として提案することにしました。
――総会では、すんなりと賛同を得られたのでしょうか?
古海元理事 そうですね。すんなりと言っていいと思います。
費用対効果に関する質問や本当に役に立つのかなどの質問がありましたが、圧倒的な賛成多数で承認されました。事前に重松さんと打ち合わせをしながら議案を作成しましたので準備はしっかり出来ていましたし、審議もスムーズに進みましたが、無事承認されたときは、やはりホッとしました。
当時の私達の団地は「自主管理」が当たり前という文化が出来ていましたから、マンション管理士を起用して運営することにアレルギー反応を示す組合員が多いのではないかという心配もありましたが、「このままではジリ貧になってしまう」という考えをお持ちの方も結構いたようです。
――実際の重松事務所のサポート内容について教えてください。
古海元理事 契約後は、顧問として理事会に出席していただき管理組合運営全般にかかわってもらうほか、長期修繕計画全面見直しのワーキングチームにも参加していただきました。
まずは、建物調査と長期修繕計画作成の作業を行う専門業者の選定作業から開始することにしましたが、業者の選定に関しては、予算金額内で理事会に一任していただくことを総会で承認してもらっていたものの、数ある業者の中からどの業者を選定するかに関しては、理事会だけでは難しい作業だったのでとても助かりました。
――もう少し具体的に教えていただけますか?
古海元理事 はい。重松さん達にやっていただいたのは、業者選定時のサポートや契約した業者の業務内容のチェックや指導、それから、業者が作成した成果物のチェック作業などです。
例えば成果物のチェックでは、成果物が管理組合との契約内容に沿っているか、国交省のガイドラインに準じているかなども含めて全面的に確認していました。そして、最終的には管理組合の意向が反映されている長期修繕計画になっているかなども確認し、そうなっていない場合は何度も業者と打ち合わせをして修正してもらっていました。
――実際に重松事務所のそのようなサポートを受けていかがでしたか?
古海元理事 それはもう、素直に助かりました。もっと言った方がいいですかね(笑)。いや、冗談抜きに、私達だけだったら契約内容や国交省のガイドラインとの照合まで気が回らないですし、気がついてもどこまで出来たか。
肝心の長期修繕計画書そのものも、重松さん達のサポートの下、私達の意向が十分に反映されていましたし、工事の実施時期、工事金額等の詳細と、その根拠となるバックデータもきちんと整備されていて、わかりやすく納得のいく内容でした。
業者との打ち合わせも含め、重松さん達の作業は大変だったと思いますが、お陰でより納得のいく長期修繕計画になりましたし、細かいチェックまであるのとないのでは、やっぱり安心感も違いますよね。「そこまでやるものなのか」と感心しましたが、これなら組合員に対しても、より説明がしやすいですしね。
――2つあった大きな課題のうち、長期修繕計画の方はこれで解決ですね。もう一つの課題、修繕積立金の方はいかがでしたか?
古海元理事 修繕積立金不足は、重松さんと契約する以前から理事会内でも心配されていたことですが、新しい長期修繕計画でそれがハッキリしました。私はある程度予想していましたが、やはりショックでした。十数年前、長期修繕計画書を作成した時に修繕積立金の見直しも出来れば良かったのですが、それをやっていなかったのでそのツケが回ってきた感じでした。
ハッキリした以上、一刻も早く修繕積立金の改定案を作って総会に諮りたかったのですが、残念ながらその年にそこまでは出来なかったため、その年の通常総会では作業状況等を報告する「経過報告」とし、次年度で修繕積立金の改定案を本格検討することとしました。
それと、これは余談になりますが、私はその年で理事を卒業したのですが、翌年からは長期修繕計画見直しのワーキンググループ(現在の修繕専門委員会)に参加することにしました。修繕積立金の問題が中途半端な状態でしたし、重松マンション管理士事務所を採用する時の関係者でもありましたので、マンション管理士を起用したらどうなるのかを見届けたいという気持ちもありましたし、その後に予定されている大きな修繕工事等でもお役にたちたいという思いがありました。
――そのようなお考えがあったのですね。本当に頭が下がる思いです。
――それでは、修繕積立金の検討作業以降のことを詳しく教えていただけますか?
古海元理事 はい。修繕積立金の改定は非常にセンシティブな問題なので、修繕委員会が主導して理事会と協議しながら進めましたが、かなりハードな作業でした。
現在の修繕積立金のままでは、向こう30年間の適正な維持・管理が難しいことが明らかでしたが、ではいくら値上げをすればよいかということになると、意見が分かれます。高齢化して、年金生活者が多くなっているので簡単に「○○円値上げすれば済む問題」とはいきません。
そこで、重松さんにアドバイスやサポートをしていただきながら様々なパターンをシミュレーションして検討しました。
――検討した内容を具体的に教えていただけますか?
古海元理事 はい。具体的には、
- 建物の診断結果を踏まえ、大規模修繕工事の周期を見直す。
- 直近の資金計画(資金繰り)を考え、3回目の大規模修繕工事と給排水管更新工事の順番を入れ替える。
- 給排水管の更新に関しては、専有部分である横引管の更新費用を個人負担にするか修繕積立金にするか検討する。
- 住宅金融支援機構からの借り入れと返済期間等を検討する。
- 高額の工事費がかかるアルミサッシの更新に関しては、いったん断念し、レールや戸車の交換で対応してみる。
等の検討をしながら、修繕積立金の値上げに関しては、月額3,000円〜7,000円の値上げ幅について何種類ものシミュレーショングラフを作成して検討しました。
▼長期修繕計画と修繕積立金のシミュレーショングラフ
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その結果、最終的に次の2案に絞って住民に提案し、どちらがよいか考えてもらうことにしました。
- A案:
- 一気に月額5,000円の値上げを行う「均等積立方式」
- B案:
- まず月額3,000円⇒5年後にさらに2,000円⇒さらに5年後に2,000円の各値上げを行う「段階値上げ方式」
しかし、先ほどもお話したように、当団地は年金生活者が多いので、かなり厳しい提案であることは分かりました。
――そうですよね・・・
古海元理事 はい・・・。しかし、今この値上げをやっておかないと、ツケをさらに将来に回すことになってしまうので、組合員には十分な説明をして理解してもらおうと考えました。
――厳しいですが、仰る通りですね。
理解を得るために、具体的にどのようなことをされたのですか?
古海元理事 普段から広報紙等を通じて修繕委員会の活動状況や議論の内容を周知するように努めていましたので、当団地が置かれた状況と今後の修繕計画等に関しては概ね理解してくれているとは思っていましたが、さらに理解を深めていただくため、重松さん達のアドバイスとサポートの下、全住民を対象にした住民説明会を開催しました。
当時月額9,000円だった修繕積立金を3割から7割も値上げする提案ですから、組合員にとってはかなりの負担増になります。ある程度の反発があることも想定し、重松さん達と打ち合わせを重ねながら準備をして当日の説明会に臨みましたが、現在漏水事故が多くなっていることや委員会と理事会での議論の詳細を丁寧に説明したところ、特に揉めたり荒れたりすることもなく、きちんと理解していただけました。
残念ながら全員参加とはいきませんでしたが、多くの方々が出席した住民説明会で理解を得ることが出来たことは、十分な手応えに繋がりました。
そして、説明会での説明をふまえ、さらに先のA案、B案の2種類のプランについて組合員にアンケート調査を実施したところ、圧倒的多数でA案(一気に月額5,000円の値上げを行う「均等積立方式」)が選ばれました。
――なるほど。広報活動プラス住民説明会での十分な説明とアンケート調査を通じて理解していただいたわけですね。
――最終決定は総会でしょうか?
古海元理事 はい。私達の団地の管理規約では、長期修繕計画の承認と管理費等の改定は総会の議決事項となっていますので、住民説明会での反応とアンケート結果を受けて、次の通常総会に長期修繕計画と修繕積立金の改定を議案上程しました。
――結果はいかがでしたか?
古海元理事 既に住民説明会で多くの方々の理解を得ることが出来ていたことと、アンケートに基づく住民の多数意見を反映した議案であったこともあり、圧倒的な賛成多数で可決されました。大丈夫だという確信はありましたが、可決された時はやはりホッとしましたし、これで今後は本格的な計画修繕の実施に向けて進んでいくことが出来ますので、大袈裟かもしれませんが、この団地の将来がパーッと明るく開けた感じがしました。
――こちらの業務に関しては、重松事務所のサポートはいかがでしたか?
古海元理事 もちろん助かりましたよ(笑)。修繕積立金のシミュレーションや資金計画へのアドバイスやサポートはもちろん、その後の総会までの合意形成プロセスのアドバイスや広報活動、議案作成のサポートなど、最初から最後まで本当に助かりました。
ただ、正直に言えば、もっと楽が出来るのではと思っていました(笑)。
――どういうことでしょうか?
古海元理事 まぁ、私の見通しが甘かっただけの話なのですが(笑)、「マンション管理適正化法」にもあるように、マンション管理の主体はあくまで管理組合にあり、重松事務所に「あとはお任せします!全部解決しておいてください!」と丸投げできるわけではありません。
もちろんお任せできることはお任せするのですが、方向性を決めたり、一つ一つの意思決定は、当然自分達でしていかなければいけないわけで、解決したい事が多ければ集まったり決めたりしなければならないことも同じように多く、それ自体は変わらないわけです。もっとお支払い出来れば、もう少し楽が出来た部分もあったのでしょうけど(笑)。
――なるほど(笑)。課題の数自体が減るわけではないですし、重松事務所の人間は区分所有者ではないですからね・・・
古海元理事 そういうわけで私達も大変でしたが(笑)、楽が出来た部分ももちろんありますし、重松事務所のサポートがなかったらここまでスムーズに進まなかったと思います。長期修繕計画を作ってくれた設計業者は、技術面(調査・診断・仕様決定・積算等)ではもちろんプロですが、管理組合の合意形成をはじめとしたマンション管理の方は専門ではありませんし、方向性を決めたり意思決定する上での判断材料になる資料やアドバイスなどがなければもっと時間がかかったはずですし、同じ判断ができなかったかもしれませんので。
――他に何かありましたらお願いします。
古海元理事 マンション管理のプロとご一緒することで「継続性」などを手に入れた私達は、同時に、マンション管理への理解を深め、今まで以上の「自主性」を持ち、より深くマンション管理に携われるようになりました。
私に関しては、引くに引けなくなって結果的にそうなってしまった、という方が適切ですが(笑)・・・それはさておき、今回の活動を通じて実感したのが、わが団地の潜在能力というか、住民の方々の見識の高さ──と言うとちょっと偉そうな言い方になってしまいますが、今、こうして着実に成果に結びついているのは多くの方々にご理解とご賛同をいただいたお陰で、本当に感謝しています。もちろん、その能力を発揮できる環境をつくっていただいているのが、重松さんをはじめとする重松事務所の方々だということは、いうまでもありません。
――長々とありがとうございました。
ここからは、再び成瀬理事長にお伺いします。
――成瀬理事長になってから取り組んだ業務についてお聞かせください。
成瀬現理事長 私が理事長になってからは、いきなり給排水管の全面更新という当団地が初めて取り組む一大事業を抱えることになりました。
当団地の理事の任期は1年ですが、私は2年間理事長をやりこの工事が完工するのを見届けましたので、この工事を無事に遂行するために理事長にさせられたようなものです(笑)。仕事はリタイアしていたとはいえ、他にやらなければならないことや、やりたいことも抱えていましたし、家内からは「お父さんいい加減にしてくださいよ」と叱られながらの2年間でした。
しかし、私がこのような大変な事業を何とかやり遂げることが出来たのは、重松事務所のおかげだと心から感謝しています。
――給排水管の更新工事はそんなに大変なことなのでしょうか?
成瀬現理事長 大変です(笑)。経験した人でないとわかりません。
設計事務所を選定し、工事予算を作り、工事会社を選定し、工事中の打ち合わせや立会いを行い、とこれだけのことならどこのマンションでも必ず何回かは経験する外壁や屋上の大規模修繕工事となんら変わらないと思われるでしょうが実はそうではないのです。
大規模修繕工事との一番の違いは、「専有部分に立ち入って工事を行う」ことと、工事日程が1日刻みで決められていることです。
特に排水管の更新工事を行う際は、縦系統(1階から5階まで)の住戸を同時に施工する必要があるので、工事予定日の変更が簡単に出来ません。つまり、1軒でも工事に協力していただけない住戸があると、その系統すべての住戸の工事が完成しないのです。これが大規模修繕工事とは大きく違うところで、段取りや手順にとても気を使います。事前に重松さんからも聞いていましたし私自身も予想はしていましたが、実際に経験してみると、とにかく大変でした。
――なるほど、段取りや手順が重要であり、そこが大変ということなのですね。
それでは、具体的にどのように進めていったのか、順を追って詳しくお聞かせください。
成瀬現理事長 まずは設計事務所の選定からスタートすることになりますが、実はこちらの方は簡単でした(笑)。
なぜなら、過去から当団地の大規模修繕工事等の設計監理をお願いしていた市内の設計事務所に特命で発注することを事前に総会で決議していたからです。重松さん達の説明を受けて大変な工事になることは理解していましたので、当団地のことをよく知っているからという理由で特命発注を決めました。しかし、大変なのはここからです。
実質的な設計業務にかかっていただくわけですが、事前に十数軒の住戸に立ち入り調査をお願いし、竣工図面と実際の施工状況との違いを含め、確認しなければならない多くの項目をチェックしていきます。
住戸のタイプにより室内の水まわりや排水竪管の位置が違うのは当然ですし、30年以上もたっているのでリフォームをしている住戸も結構ありました。管理組合で把握している内容と実際の状況が大きく違う中で、統一性のある仕様を決めていかなければなりませんので、とても時間のかかる作業でした。
――300戸を超える団地でそれは・・・大変ですね(笑)。
成瀬現理事長 はい(笑)。まだまだこれからですが(笑)。
今回の工事を成功させるポイントは、住民に対する徹底した情報提供と協力依頼だと考えていましたので、設計概要がまとまった時点で、住民に対して2日間計6回の「設計概要説明会」を開催しました。
多くの方が参加してくださった説明会は、設計の概要に関する説明会ではありましたが、工事に関する質問なども結構出たりしてその関心の高さは私にも十分伝わってきましたので、修繕委員会、理事会がきちんとした手順で進めていけばこの工事は必ず成功すると、この時私は直感しました。
――2日で6回とは随分念を入れているように感じましたが、ここでも、やはりきちんと説明していくことが重要なのですね。
成瀬現理事長 そうですね。重松事務所からもそういうアドバイスをいただいていましたが、私自身もそこがポイントだと考えていました。結果、設計概要説明会は9割超(実際は92%)の出席率となり、大成功でした。
――300戸超の団地で9割超の出席率というのはまさに驚異的ですね!
成瀬現理事長 私達的には100%の出席を目指してはいたものの、過去の総会や大規模修繕工事の説明会の出席率などをふまえると、正直どの程度の出席率になるか読めない部分がありました。だからこの結果には私達も驚きましたし、私はこれなら絶対成功すると感じました。
――長年自主管理をされてきたとのことですから、元々普通のマンションよりも関心が高い方々が多いのかもしれませんが、徹底した広報活動などの地道な積み重ねがあってこそですね。
――それでは、続きをお願いします。
成瀬現理事長 はい。設計が完了したら、今度は工事会社の選定にかかりまました。この時も重松事務所に全面的にかかわっていただきました。
重松事務所のアドバイスもあり、談合防止のため、工事会社選定は管理組合独自で行うことは事前に決めていましたので、新聞公募から、第1次選考までの作業は修繕委員会と重松事務所で行うことにしました。
――管理組合だけで工事会社選定を行うことと、談合防止とどのような関係があるのでしょうか?
成瀬現理事長 重松事務所によれば、談合は設計事務所や管理会社が関与して行われることが多いそうです。
ですから、工事会社選定に設計事務所や管理会社はかかわらせないで管理組合だけで実施することで談合防止に繋がるのです。決して設計事務所や管理会社を信用していないわけではありませんが、修繕積立金の値上げもありましたし、少しでもコストやリスクを抑えたかったので、このことは最初から設計事務所との契約条件としていました。とはいっても、私達はやったことがありませんし専門的なこともわかりませんので、重松事務所に全面的な支援をしていただきました。
――具体的なサポート内容とその結果を教えていただけますか?
成瀬現理事長 はい。まずは支援していただいた内容ですが──
- 現場説明会や情報提供のやり方、対応・交渉の仕方など、効果的な進め方に関するノウハウの提供やアドバイス、それぞれの支援。
- 質疑及び回答については、重松事務所が取りまとめて設計事務所とやり取りをする。
- 後日提出された見積書を一覧表にし、重松事務所独自の目線でチェックして、談合の有無等をチェックする。
というところでしょうか。
結果の方ですが、見積金額が設計価格の約56%〜約90%と、かなりのバラつきのある金額となり、更にヒアリングや個別の価格交渉を経て、最終的にはかなり安い金額で発注することが出来ました。
▼工事会社見積比較一覧(談合チェック)
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――談合を防ぎ、なおかつ安い金額で発注出来たのですね。
それでは、引き続き工事会社が内定してからのことをお話しいただけますか?
成瀬現理事長 はい。内定した会社とは非公式の打ち合わせを進めながら、5月の通常総会に向けて準備を進めました。また、今回の工事の特徴である、『専有部分(横引き管)の工事費用を修繕積立金から支出』することが出来るようにするため、管理規約の一部を変更する議案も併せて総会に諮ることにしました。
管理規約の改正という極めて重大な議案と、当団地がかつて経験したことのない一大事業計画が、いずれも満場一致で承認され、工事着工前の「工事概要説明会」も86%の出席率で開催することが出来たのも、議案書の作成や広報を通じた情報開示等に関し、重松事務所が的確な支援をしてくれたからだと思っています。
▼わかりやすさにこだわり、修正を重ねた工事概要説明会の資料
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――設計、設計概要説明会、工事会社選定、規約改正、総会、工事概要説明会・・・給排水管更新工事とだけ聞くと小規模な修繕工事並みな印象もありますが、大規模修繕同等にやることが多くて本当に大変そうですね(笑)。
いよいよ給排水管更新工事の始まりだと思いますが、引き続きお願いします。
成瀬現理事長 はい。実はこの後の方が大変なのですが・・・(笑)。
まずは共通仮設工事 ※1 からスタートです。現場事務所などは大規模修繕工事と同じですが、給排水管更新工事の場合、居住者用の仮設トイレを設置します。工事中断水しますし、作業員が各戸内で作業するので自宅トイレを使いにくい状況があり得るからです。
※1 現場事務所・作業員詰所・資材置場・材料加工場・作業員用仮設トイレ・手洗い場・工事用掲示板・工事用ポスト・居住者用仮設トイレ等の各設置を行う工事のことです
そして、本格的な工事に入る前に「全戸室内事前調査」と特徴的な数戸をピックアップしての「室内工事事前施工」を行うのですが、この2つは給排水管更新工事の成否に関わる大変重要な役割を果たします。
――成否に関わるというその2つについて、もう少し詳しくご説明いただけませんか?
成瀬現理事長 はい。まずは「全戸室内事前調査」ですが、文字通り全戸を対象に、室内調査と工事の説明などを行います。
調査内容は、台所やトイレなど、給排水管更新工事に関係ある箇所の内装や器具の確認、リフォームの有無など直接工事に関わることなので、欠かすことが出来ません。そして、1戸あたり40分程度かけて310戸全戸に行いますので、これだけで実に約2ヶ月を要しました。2ヶ月かけて行うのも大変ですが、調査自体は工事会社の方が行うので管理組合としては大変ではありません(笑)。管理組合として大変なのは、調査の日程合わせです。なにせ310戸もありますから、調整だけでも結構大変なのですが、それに加えて届け出が遅れた人の対応や調査日に不在だった人の再調整などもあり、非常に苦労しました。
▼全戸室内事前調査の資料や日程表など
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次に「室内工事事前施工」ですが、これは、特徴のある3タイプの住戸の中から数戸をピックアップし、文字通り本番同様の工事を「試験的に」行うものです。本番前に同様の工事を実際に行うことで、想定する施工方法や工数等で問題ないかを確認し、問題があればそれらを洗い出して見直し、その対応を事前に決めておくことが目的です。
室内で工事をする上に、日常生活に直結する部分なので、想定外のことが起きたからといって工事を中途半端な状態で1日中断するなんてことは避けなければいけません。また、先ほども少し触れましたが、各戸の工事日程が1日刻みでビッシリ決まっている上に1階から5階まで同時に施工しなければならない箇所もあるので、例えば一軒だけ1日ずらすというようなことが出来ません。
ですから、限られた時間内でスムーズに工事を進め、工期内で終わらせるためには、本番で想定外のことが頻発しないよう、このような手順が必要になるのです。
――なるほど、工事前に大変な手間がかかるのですね。そして、どちらも欠かすことが出来ない重要な役割であることがよく解りました。
成瀬現理事長 実際に調査や事前施工をしてみると、タイプや各戸の状況によって施工方法を変えなければいけないことが分かりますが、そのような「状況」への対応だけでなく、「内装の仕上げ材をどれにするか」「内装仕上げはしないで良い」というような「意向」もふまえて施工しなければなりません。
口頭でごく一部をお話ししているだけなので伝わりにくいかもしれませんが、これらの作業がいかに大変か(笑)、そして、大規模修繕工事とは全く違う手間や配慮、きめ細かい対応が必要なことが何となくはお分かりいただけるのではないでしょうか。
――大規模修繕工事との違いはもちろん、給排水管更新工事がいかに大変かよく解りました(笑)。特に規模の大きな団地ほど大変ですね・・・。
――事前調査と施工が終わったら、次はいよいよ室内工事・・・
成瀬現理事長 いえ(笑)。その前にもう一度住民説明会を行いました。
住民説明会は、「設計概要説明会」「工事概要説明会」に続きこれで3回目になりますが、今回は「室内工事説明会」になります。文字通り各戸で実際にどのような工事を行うか、その内容や注意点、お願い事項などを説明する大事な説明会ですので、開催日の段取りはもちろんですが、資料も少しでもわかりやすくなるように配慮し、重松事務所にもかなりお手伝いいただきました。
そして、今回も非常に多くの方々が参加してくださったのですが、本当に当団地の皆様の真面目な姿勢には感心させられますし、修繕委員会や理事会も張り合いがあったと思います。
――成瀬理事長をはじめとした関係者の方々のご尽力があってこそだと思いますが、お話しを伺っていて本当に当事者意識の高い方々が多いように思いました。
このご様子だと、室内工事もスムーズに進行したわけですね?(笑)
成瀬現理事長 もちろんです!(笑)。室内工事は約3ヶ月に及びましたが、大きなトラブルもなく予定通りに室内工事を終えることが出来ました。しかし、こちらもやはり大変でした(笑)。
――具体的にお願いします(笑)
成瀬現理事長 はい(笑)。
室内工事は1戸あたり5日必要になりますが、先ほどの「室内工事事前施工」でもお話しした通り、1日刻みのタイトな日程で行う上に、1階から5階まで同時に行わなければいけない箇所もあるので、簡単に中断や延期が出来ません。
ですから、管理組合もその3ヶ月間は気を抜けないのです。
大規模修繕工事と違い、高い頻度で定例会議を行いながら状況を確認し、必要に応じてその場で意思決定をしながら進めていきましたが、こうした体制作りも重要なポイントになります。定例会議には重松事務所の方々にも参加していただきましたが、私達だけでは不安でしたし、すぐに相談出来るので大変助かりました。1日刻みのスケジュールを確実にこなしていかなければ工事が完了しないような事は普通の工事では考えられませんが、工事会社はこの日程をきちんとこなしてくれました。工事会社の苦労も相当なものだったと思いますが、住民の皆様の協力なしでは出来ないものでした。もちろん、重松事務所や設計事務所のご尽力にも大変感謝しています。
成瀬現理事長 工事が無事完了したときの達成感は、経験したものでなければなかなかご理解いただけないと思いますが(笑)、大成功に終わった工事完了後には完成セレモニーを開催し、設計事務所、工事会社、重松事務所に対しては管理組合から感謝状を贈呈いたしました。
――ハッピーエンドですね。給排水管更新工事の進め方や大事なポイントはもちろんですが、いかに大変か(笑)という点も、頭では理解出来たように思います(笑)。
ところで、長期に渡る大変な事業だったわけですが、重松事務所に支払った報酬額を教えていただけますか?
成瀬現理事長 はい。基本的には顧問契約の範疇でお願いしましたので、月額8万円(消費税別)です。それに加えて、給排水管更新工事期間中、毎週の定例会議に出席していただいたので、1回の出席につき別途報酬をお支払いしました。
ただ、実際には日常の管理組合運営の他、今回の給排水管更新工事で相当のご支援をいただきましたから、顧問契約の範疇どころではなくなってしまったというのが実状です。大変申し訳ないと思っているのですが、修繕積立金の件や高齢者が多いという当団地の事情もあり、また、今後も継続的なご支援が必要なので・・・そのあたりの事情を汲んでいただきました。本当に申し訳ないと思っているのですが・・・。
――その後、今度は3回目の大規模修繕工事の準備に入っていると伺いましたが。
成瀬現理事長 はい、理事長としての最後の仕上げみたいなものです(笑)。
設計監理方式で進めることになっていますが、こちらの方も、引き続き重松事務所に全面的なご支援をいただきながら進めることになっています。
その他、管理費滞納の問題もあったのですが、これも重松事務所のお陰で解決しましたので、現在は大規模修繕工事に向けて理事会と修繕委員会で取り組んでいるところです。
――最後に、マンション管理士の活用について何か一言お願いいたします。
成瀬現理事長 旧住宅公団系の団地は、私達と同じように自主管理を主体とした管理が多いのではないかと思いますが、組合員の高齢化が進み、当団地のようにマンション管理が思うように出来なくなってきているケースが増えているのではないでしょうか。
昔と同じことをやるだけなら何とかなる部分もあると思いますが、当団地のように長期修繕計画や資金計画に問題がでてきたり、給排水管更新工事のような未経験の事が出てきた時、的確なアドバイスやノウハウを提供してくれたり、私達の負担が軽くなるような支援をしてくれたり、私達にできないことを私達の代わりにしてくれたり、マンション管理に関する様々なことを、私達と一緒に考えたり動いたりしてくれるマンション管理士の存在は大変大きいものでした。理事長だから余計にそう感じるのかもしれませんが、先送りすることなく、やりたいことを次々と実現していける、問題を次々と決していけることを実感した2年でした。
当団地は顧問契約をしてご支援いただいていますが、契約の形も様々あると思いますので、必要に応じて上手く活用出来ると良いと思います。
ご協力ありがとうございました。
なお、給排水管更新工事につきましては、別途ブログにて重要なポイントなどをまとめさせていただいておりますので、よろしければそちらもご覧ください。
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